|
|
◇ |
|
ナキシスは重たい扉の前に立ち尽くしていた。
ダライアの言葉をただ自分の思いの中に沈めればよかった。だが、それはそれで終わらなかった。ここに立っていることがその証拠だ。
挙げた手をじっと見つめる。
この扉を叩けば彼はきっとにこやかに迎えてくれる。
だが、それ以上のことはない。
たとえ私が真相を求めても、彼はきっと笑ってはぐらかす。
だけど、問いかけずにはいられない。
ナキシスは動きを止め、そして、その扉に寄りかかるようにして座り込んだ。
私は太陽の娘《リスタル》。
それでいい。
それでいいのです。
それが私の望みで、彼の望み。
膝を抱え、抱きしめる。自分の体温さえ、この思いを繋ぎとめる小さな錘になる。
小さく体を揺らしながら、何度も言い聞かせる。
欲が出てしまったのです。
私を見てくれる人がいる。
その視線に一瞬でも気を向けてしまったから。
『生涯の中でたった一つの『ダライア』という証であったろう』
「そんなものに……何の意味があるの……」
気持ちが揺れて。いろんなものを欲して。
どこまでも決められて、何にも揺るがされることのない日常の延長上にある、娘としての自分。
そう、私は太陽の娘《リスタル》。
そうでなければ、生きていけない。
目を瞑る。
(生きて、いきたいと思っているの?)
その思いが自分の中で、驚きと共に広がっていく。
扉の向こうに、いるかいないかわからない大魔術師の幻影を追って、ナキシスは自分の中の思いに耳を傾ける。
私は、あの視線をあの方からこそ欲しかった。
弱いと思っていた自分をそっと取り出す。
握りつぶしてきたその自分を、ゆっくりと見つめなおす。
好きだと言いたい。
貴方がそれを幻だ言い続けても、それを私が認めても、この思いは変わらない。
ただ、抱きしめて、名前を呼んで欲しい。
そうしてくれたらもう一度目を瞑って、貴方の望む太陽の娘《リスタル》として、存在してみせる。
貴方の望みどおり……。今度は二度と、目を開かずに歩ききって見せる。
|
|
|
|