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 ナキシスは重たい扉の前に立ち尽くしていた。
 ダライアの言葉をただ自分の思いの中に沈めればよかった。だが、それはそれで終わらなかった。ここに立っていることがその証拠だ。
 挙げた手をじっと見つめる。
 この扉を叩けば彼はきっとにこやかに迎えてくれる。
 だが、それ以上のことはない。
 たとえ私が真相を求めても、彼はきっと笑ってはぐらかす。
 だけど、問いかけずにはいられない。
 ナキシスは動きを止め、そして、その扉に寄りかかるようにして座り込んだ。
 私は太陽の娘《リスタル》。
 それでいい。
 それでいいのです。
 それが私の望みで、彼の望み。
 膝を抱え、抱きしめる。自分の体温さえ、この思いを繋ぎとめる小さな錘になる。
 小さく体を揺らしながら、何度も言い聞かせる。
 欲が出てしまったのです。
 私を見てくれる人がいる。
 その視線に一瞬でも気を向けてしまったから。
『生涯の中でたった一つの『ダライア』という証であったろう』
「そんなものに……何の意味があるの……」
 気持ちが揺れて。いろんなものを欲して。
 どこまでも決められて、何にも揺るがされることのない日常の延長上にある、娘としての自分。
 そう、私は太陽の娘《リスタル》。
 そうでなければ、生きていけない。
 目を瞑る。
(生きて、いきたいと思っているの?)
 その思いが自分の中で、驚きと共に広がっていく。
 扉の向こうに、いるかいないかわからない大魔術師の幻影を追って、ナキシスは自分の中の思いに耳を傾ける。
 私は、あの視線をあの方からこそ欲しかった。
 弱いと思っていた自分をそっと取り出す。
 握りつぶしてきたその自分を、ゆっくりと見つめなおす。
 好きだと言いたい。
 貴方がそれを幻だ言い続けても、それを私が認めても、この思いは変わらない。
 ただ、抱きしめて、名前を呼んで欲しい。
 そうしてくれたらもう一度目を瞑って、貴方の望む太陽の娘《リスタル》として、存在してみせる。
 貴方の望みどおり……。今度は二度と、目を開かずに歩ききって見せる。
 
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