◇
『ほら。エノリアによく似ている』
綺麗な人形。私の目よりもくすんだ金色。そして、色を隠した私の髪よりも金色に近い茶色の髪。
父がその人形を買ってきたのは、住居を山の麓に移してしばらくしてからだった。そこへ移ってから父はなかなか家に帰って来れず、帰ってくるたびに、『どこにも行っちゃいやだ』とぐずった。そんな私にその人形を渡してくれた。
本当はそんなものが欲しかったわけじゃない。
だけど、父が笑いながら渡すので、笑いながら受け取った。
ありがとうと言えば、父を引き止めるようにぐずることをやめなくちゃいけないこと、うすうす感じていた。
だから言いたくなかった。
けど、ありがとうって言った。
父は一層笑みを深めた。
その笑顔を見て、諦めた。人形はただ、微笑んでいるだけだった。
人形。
からっぽの人形。
そのからっぽを闇《ゼク》で満たしてしまった人形。
何の闇《ゼク》?
『光《リア》は……闇《ゼク》を強める……』
『光《リア》は……』
ランに握り締められた自分の手の先を見ながら、エノリアは急激な不安に襲われて足を止めた。その反動に驚きつつ、ランが振り返る。
エノリアは顔を上げた。もう目的の家はすぐそこなのに。
動けない。
「どうした」
走り続けて上がった息を落ち着かせるように、何度も繰り返し、エノリアは不安一杯の視線を家へ向ける。
「……い」
「え」
問い返してくるランを見つめた。ランは少しだけ首をかしげる。
「ここに、残るか?」
エノリアは頭を思い切り振る。
振り払う。
「い、行かないと」
自分に言い聞かせた。
自分の存在が巻き起こしたかもしれない。その『かもしれない』に抱く不安は後回しだ。今は、急がねば。
『怖い』
そう言った言葉を、ランが聞き取れなくてよかったと思った。それは本音だけど、ランが受け止めてしまったら動けなくなる。
「急いで、」
ぐっと力を込めた言葉は、甲高い悲鳴でかき消された。
びくりと体が震える。硬直したエノリアの横を、駆け抜けていくランの影。躊躇のない動きにつられて、エノリアも走り出した。
上下に揺れる視界も、後方に流れる景色も、
悲鳴に誘われて恐る恐る家から出てくる人々の姿も、
自分の見ている景色として認識されていない。
低い響きを残して、頭を叩くのは、何。
何に対しての後悔?
迷いのないランの背中だけを見つめるようにする。
彼は目の前の扉を躊躇なく開け放ち、何かを叫んで、目の前の光景へ立ち向って行く。
私はその光景を呆然と見つめていることしかできなかった。
理解、できなかった。だから、どう動くべきなのかわからなかった。
目の前に居たのは苦しそうに目を瞑る小さな子。
その細い首に頼りない腕を伸ばす父。
その腕に取りすがり、わめいている母。
それは、想像の先にあった光景だった。
だけど、追いつけない。動けない。
ふらふらと視線がさだまらず、こつりと背中にあたった固い感触によって、自分が揺れて壁に倒れ掛かったことに気づいた。
「やめろ!」
ランの一喝がその場の異様な空気を切り裂いた。
幼子の首を絞めていた父の目は、ランに注がれる。
ランはその腕を掴んで、小さな子から引き剥がした。否、父の手はランの力にあっけなく従った。
ふらついた小さな子が床に崩れ落ちかけるのが見えた。
(ぶつかる……)
そう思ったとき、体の動きを止めていた何かが、ふと消えた気がした。エノリアは手を差し伸べ、抱きとめる。
ほうっと耳元で吐き出される息に、自分の感覚も戻ってきた。
泣き喚き始める少女を、ぎゅっと抱きしめる。
ごめん。
抱きしめ、何度もそう謝った。
声になっていたのかどうか、わからない。ただ、何度も何度もそう謝った。
「エノリア」
その呟きにエノリアは我に帰る。見れば、母は小さなエノリアに心配そうな視線を注いでいた。だから、エノリアは小さな身体を母へ手渡す。母は小さな少女を懸命に抱きかかえ、そして、その背中をいとおしく撫でていた。
安堵からか、泣き声は一層高くなる。
「すまない……エノリア……」
細い声が聞こえて、エノリアは反射的にその方向へ顔をやった。うなだれた父が、そう呟き、床に手をついて呟いていた。
「エノリア……。わしが、耐え切れなかった。
お前をかくまい続けることも。
壊れていくノウラを見ることも……。
わしが、お前のことを……話、したんだ」
「お父さん?」
「金に困っていたあいつは……それをすぐに分宮《アル》へ……。
……すまない。すまない……エノリア」
震え続ける肩を、エノリアは見ていた。
胸にそっと手をあてる。
父の言葉に、もっと衝撃を受けるかと思っていた。
ずっと、姉が義兄に伝えて、そして売られたんだと思っていた。
(そう、お父さん……が)
何故だろう。全然悲しくない。
悲しいのは、自分の存在だ。
(追い込んだのは、私)
父をそこまで追いやったのも。
この事態を招いたのも。
それは、この自分だ。
(ここに、いては、いけない)
ふらりと立ち上がり、玄関へ足を向けた。
(エノリアはエノリア。新しいエノリアへ)
二人を追いかけてきたミラールとユセに、玄関ですれ違った。だけど、エノリアは何も言えずにその場を後にする。
外の光がまぶしく感じられ、エノリアは目を細めた。
綺麗に手入れされた庭。芝生は長くもなく短くもなく、柔らかな緑色をしている。季節ごとの花を咲かせる小さな花壇。それは、記憶の中の光景と位置を同じくしていた。
違うのは、ここにはもうあの大木がないことだけ。
名残の切り株に近寄って、それに手を当てる。
(ここはあのときの、場所じゃない)
あのときから、いろいろなものが随分と離れてしまった。
覚悟はずっとしていたはずだ。
そして、もっと早くに本当に覚悟しておくべきだったんだ。
いつまでも、捨てられずにいて。
もう、ずっと昔から、それは私の名前じゃなかったのに。
遠慮がちに近づく気配に気づいた。
それはランの気配だということは、振り返らなくてもわかった。
多分ランは、声をかけてこない。何を言っていいのか迷っているのがよくわかった。泣いているとでも、思っているのだろう。
エノリアはゆっくりと息を吸い、吐き出した。そして、ふと呟く。
「ここに、大きな木があったの」
衣がすれるような音がした。ランが身じろぎしたのだろう。もしかしたら、何かを言いかけたの遮ってしまったのかもしれない。でも、エノリアは言葉を続けた。
「白い花を咲かせる木よ。フュンランで、見たわ。
そう、あの木をみたときとても懐かしい気がしたわ。その理由がわかった」
「白い花」
やはりランだ。エノリアは切り株を撫でた。
「海際でしか、大きく育たない。フュンランでの木は、小さくてひょろひょろしてたわね。
あの木とは同じ木だとは思えないほど、立派な木だったのよ」
「エノーリア、か」
切り株にうつぶせた。こうして目を瞑れば、いろいろなことを思い出す。ここの木が大きかったときのこと。
私の小さな小さな思い出。
「よく登ったわ。登って、お父さんの帰りを待ったの。もちろん私はまだ小さかったから、一つ二つ上の枝にまでしか登れなかった。大きくなったらもっと高く登れるって、危ないって叱りながらお父さんがそう言うの。
山に引っ越したとき、近くにエノーリアを探したわ。でも、この木よりは小さな木しかなかった。こんなに大きなエノーリアの木、他になかった」
小さな頃の思い出なのに、大きな木の姿は鮮明に思い出せた。頭の上を埋め尽くす、大輪の白い花。懐かしい芳香。
「大きな花を咲かせるの。満開の時には真白になるわ。香りがあたりに漂って、みな好きだと言ってくれた……大好きだったのに。切られちゃった……」
「エノリア」
エノリアは振り返った。緑の瞳と目があった。
心配するような不安そうな、揺れる光を見たら、何かが、溢れそうになった。
止めようとして息を呑んだ。だけど、押し込もうとした言葉が、溢れ出てきた。
「どうしたらいいの? 私が側にいてもいなくても、どうして傷つけてしまうの?
本当は、本当は……宮から迎えが来たとき、本当はそんなに辛くなかったのよ。
お父さんとお母さんと離れて、それでお母さんが安らかな気持ちになれるならって思ってたのもあったわ。
逃げても、絶対にここには戻らないって。でも、お母さんは私の名前をずっと呼んで……ずっと呼んでた。
いつも、いつもいつも、そんなときにお母さんは私の名前を狂ったように繰り返すの」
エノリアは顔を上げた。
「怖かったわ! お母さんのこと大好きだった! でも、怖かった……。
自分のせいだってよくわかってた。だから、本当は……このまま宮に居ても大丈夫だって……お母さんが、静かに暮らせるなら。
あの声も、忘れてしまおうって。
狂ったように『愛しているから』と繰り返した、あの声も忘れてしまおうって、思った! 忘れていられた!
だけど、最後に一度だけ」
エノリアの顔がゆっくりとうなだれる。
「一度だけ、聞こえたの。私の聞きたかった優しい暖かな声で『エノリア』って。
私はそのとき振り返ることができなかったわ。
お母さんの顔を見ることができなかった。
私はずっと、そのときの表情がどんな表情だったのかを知りたかったの。
私がずうっと、ずうっと見たかった穏やかで、優しい顔だったのか、知りたかった。確かめたかった。
だから、戻ろうっていう気持ちが残ってたんだわ。一度だけ、遠目でもいいから、どんな顔をしているのか確かめたいって。でも!」
自分をつよく抱きしめる。でないと、支えきれない。ほろほろと崩れて、崩れたらもう立ち上がれなくなりそうな気がした。
「こんなことに!」
気づけば、ランが側に膝を折って、こちらをのぞきこんでいた。
「エノリア、落ち着け」
エノリアはランを勢いよく振り返った。その勢いに驚くランの腰に下げられた剣の柄へ手を伸ばす。驚きながらもランはその動きに反射した。剣を抜きかけたエノリアの手を上から押さえ込んだ。
「エノリア!」
「じゃあどうしたらいいの! どうしたらいいの!!
私は生きていたい! けど!
私が生きている限りこんなことが続くのなら!
大切な人を傷つけるのなら!」
「そんなことは」
「リーシャは死んだわ……!
シャイナは私のせいであんなことに!」
エノリアは、睨みつけるようにしてランを見上げる。
「私の、せいでしょ!」
「お前」
「私の、せいよ!!」
わめくように叫ぶエノリアを、ランは静かに見ていた。ランが長く息を吐き出す音が聞こえた。しばらくして、ぽつりと声が降ってきた。
「お前、フュンランで言ったよな。どうして、一緒に旅をしてくれるのかって」
エノリアは呼吸を繰り返す。穏やかながらも、思いの強さを抑えきれぬ、緑色の輝きをじっと見つめていた。
「俺は確かな答えを持ってなかった。『何故だ』と聞かれて答えを出せるほど疑問に思ってなかったんだ。
お前と旅をすることは、強制でもなんでもなかったし、そこに理由がいるとは思ってなかったから。
お前を守るって言っただろう? お前は疑い続けるかもしれないけど、俺にはそれしか思いつかない」
「だけど、私は」
「本当にお前が災いを呼んでいるなら、そして、俺がシャイマルークの血族なら、殺さなくちゃならないのかもしれない。
だけど、真実がそれに近くとも。真実がそうであっても」
ランの言葉はそこで途切れた。その先の言葉を考えているようでもあったし、それを言ってしまうことを躊躇してるようにも見えた。
「俺はお前を殺したりなんかしない。
いや、違うな……。出来ないんだ」
「どうして」
「……傷つけたくない。殺したくないよ、俺は……」
かすれるような声だった。エノリアはその言葉を聞いて、自分の心臓を叩いていた痛い激情が、ゆっくりと薄れていくことに気づく。
「ユセが言ったんだ。お前が死んでも、二つ目の太陽は巡り続けるんだって。そして、そうなったとき、もう二度と、お前はお前として生まれることはないんだって」
ランは小さく笑う。優しい目でエノリアを見つめる。
「俺はそれが嫌だと思った」
エノリアはただ一心に彼の目を見ていた。
「光《リア》は巡ってくる。
なのに、それはお前じゃない。エノリアじゃない。
お前がお前でなくなるのは嫌だ。
……それだけだ」
「ラン」
「こんな言葉じゃ、お前は自分が二人目で特殊だから、助けるんだろうって、いつまでも言うだろうな。
……だけど、俺はそう思った。本当に、それだけなんだ」
エノリアの手から力が抜けた。ランの剣から手を離し、そして、地面をじっと見つめる。何度か大きく息を繰り返す。
ランは剣を収めて、息をついた。優しくエノリアの肩に手をかけ、その顔を覗き込む。
「エノリア、行ってみよう」
不思議なほど芯の在る言葉だった。顔を上げると、ランは切り株に手を置いて、真っ直ぐにエノリアを見つめていた。
何を言っても、そらさないだろう。
エノリアにはその視線に強さを感じていた。
この人は、私が迷っても、間違っても、きっと、この視線をそらしたりすることはないだろう。
「とにかく、先へ行こう。それから考えよう。
今、これから何をすべきかを決める必要なんてない。
お前1人で、迷う必要なんてないんだ」
「うん……」
エノリアは大きく息をつくと、笑いながら顔を上げる。
「たまには」
「ん?」
「……あんたの単純思考も、役に立つのね」
「お前な……」
向かい合って、お互い苦笑いをする。そんな二人の間に振ってきたのは女性の声だった。
「エノリア?」
エノリアは、はっとして顔を上げる。小さな少女の手を引いて、こちらを伺っているのは母だった。
「お母さん」
「……エノリア、本当に無事、だったのね」
エノリアは、頷いて困ったように笑った。
「無事、だったのよ」
そう言って、エノリアは手を引かれている小さなエノリアへ視線を向けた。小さなエノリアは泣き腫らした目をエノリアへ向け、少しだけ笑った。それにつられるようにして唇の端を持ち上げたエノリアに、今度は全開に笑う。
その笑顔を見て、エノリアは自分の中で凝り固まっていた何かが溶けたのを感じていた。
そして、その笑顔を見ていた母が、小さなエノリアの肩に手をやってしゃがみこむ。
「エノリアよ。貴方の姪で、妹」
「めい?」
エノリアは小さなエノリアの笑顔を見下ろしていた。
「そう。テスタの一番下の子供よ。貴方が王宮へ連れて行かれてからすぐに生まれた子供」
「養子にもらって、エノリアって名づけたの?」
私の代わりに? とは言わなかったが、その言葉はその響きに含まれていた。母は首を振った。
「いいえ。名づけたのは、テスタよ。
テスタは貴方のことを、本当に悔やんでいたわ。
きっと貴方が殺されると思って……名づけたのね」
「テスタ……姉さん」
顔を見たのは数度だけの、実感のない姉。
「私が貴方を失って、ずっと泣いて暮らしていたから……。テスタが養子にしてほしいってつれてきてくれたの。
責任を感じていたから。
あの子は何も悪いことをしていないのに」
「結果的に、私を売ってしまったから?」
「……私のせいなのよ。エノリア」
エノリアの母は、立ち上がって、今度はエノリアに手を伸ばした。エノリアの両手を取って、そして握り締める。
「私が弱くて、貴方を失うかもしれないという恐怖に負けてしまったからよ。
それをお父さんが心配して……。でも、私のせいね……」
その手の感触を確かめるように、しっかりと握り締める母の手を、エノリアは見下ろす。
「ごめんなさいね、エノリア」
母はうつむいていた。うつむき、その肩を震わせていた。エノリアはその震える母の肩越しに、玄関に立ち尽くす老いた父を見る。正気を取り戻した父の目には、苦しさだけが映っていた。
辛いはずだった4年。本当に父は老いてしまった。
この4年は、こんなにも重くのしかかっていたのだ。
だけど自分には友達がいた。辛いはずだった4年のうちの大半を、支えてくれたシャイナとリーシャがいた。
シャイナの屈託のない笑顔と、リーシャの明るさ。命を狙われだしてからはランとミラールとラスメイが。
ランの方へ顔を向けると、何の問いかけもしていないのに、ただ一度だけ頷いた。それだけで、何故か少しだけ強くなれる気がした。
私は少なくとも不幸ではなかった。命を狙われていても、逃げ続けていても、不幸だと感じたことはなかった。
幸せ、なんだ。
多分、これからも。ランやミラールが側にいてくれて、一緒にいると言ってくれることはとても幸せなんだ。
エノリアは、こちらを不思議そうに見上げていた小さなエノリアに向けた。
「貴方のお名前を教えて頂戴?」
小さなエノリアは不思議そうに首をかしげる。一度教えたのに、とでも言うようにエノリアを見つめていたが、にっこりと笑って元気よく答える。
「エノリア=ルド=ギルニア! そっか、全部教えてなかったんだよね? うーんと、エノリアお姉ちゃんのお名前は?」
エノリアは微笑んだ。
ずっと私を支えていたその名前はこの子へ渡そう。
誰も、何も、悪くない。
「私の名前は、ただのエノリアよ……」
母はエノリアの言葉を聞いて顔を上げる。
涙で濡れた瞳。
そこに、あのとき恐怖し続けた狂気はない。
エノリアは微笑んだ。その微笑に、母はますます泣きそうな顔をして言葉をこぼす。
「そうね。その名を選ばせたのは私だわ……でも。……でも、エノリア……」
母は少しだけ顔を上げて、そして、エノリアをまっすぐに見つめた。
「貴方は、私の娘よ、エノリア。
愛しているわ」
(ああ、そう。この目だ)
この目が、見たかったんだ。
ちゃんと確かめたかった。
あのとき。
『エノリア!』
あの時、最後に。
『エノリア……』
どんな目をしていたのか。
『愛しているわ』
この目で見てくれていたのか。それを確かめたかった。
きっと、この目だった。
「私、行きます」
「エノリア」
エノリアはその瞳を前に、口を開いた。謝ろうと思った。自分がこんな色を持って生まれてきたことを。そこから発生したいろんな災いを。だけど、口から出た言葉は謝罪ではなかった。
「お父さんとお母さんとエノリア……。みんなの幸せを願っています」
そう言うと、自然に笑顔がこぼれ出た。そう、言いたい言葉は謝罪ではない。
「穏やかに、幸せに……暮らしてください」
願いと、そこに込めた感謝だ。
そう言って、エノリアは一礼してその場を後にする。道へ足を踏み出したとき、再び名を呼ばれた。
「エノリア」
一度だけ振り返った。
母と父とエノリアが、並んで立っていた。名を呼んだのは母。そして、父が口を開く。
「いつでも……」
その後の言葉をエノリアは封じるようにして微笑む。そして、足を踏み出した。ランとミラールとユセが、両親に何かを言っている気配はしたけど、エノリアは振り返らなかった。
父が言おうとした言葉の先を捨てるように、首を振って、視線を真っ直ぐに前へ向けた。
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