「何を、聞きたい? なんて聞くのはいまさらよね」
自嘲的に笑いながら言った言葉に、ラスメイはこくりと頷いた。ナーミは、やっぱり? などと呟いて、困った様に髪をかきあげた。座りこんだのは、分宮《アル》の前の階段だった。メロサにきてすぐに、エノリアとラスメイが座って、ミラールの笛を聞いていたところだ。
ラスメイとナーミが並んですわり、ミラールはその何段か下に立って、二人と向き合っていた。
「犯人を、知ってるんだろう?」
単刀直入に聞くラスメイに、ナーミは薄く笑う。
ミラールはその笑みを肯定と受け取った。
「どうして、言わないんですか」
「認めたくなかったから……かな」
「レイも、知ってるんだろう?」
ラスメイの言葉に、ミラールは弾かれた様に顔を向ける。問いただすような視線に、ラスメイは言いにくそうに呟いた。
「二人で、そんな話をしてたから。『認めたくない』だとか『思ってるんでしょ』とか」
「カタデイナーゼは、犯人を憶測していて……僕たちに犯人探しを手伝えと?」
ミラールの言葉を受けて、ナーミは苦笑した。
「彼が何を考えていたかは、私にもよくわからないわ……」
消え入るようなナーミの声に、ミラールは微かに眉を寄せた。食いいるように見つめるラスメイの紫色の瞳を、ナーミは静かな目で見る。
「レイには、レイの……守りたいものがあって。私には私の守りたいものがあった……」
「それが、犯人だって?」
ラスメイがそう聞き返し、そして続けた。
「『醜い者』ってやつじゃないのか?」
ナーミはにっこりと微笑んで、ラスメイの頭に手を置く。
「そのことは内緒ね?」
「どうして?どうして放っておくんだ。
どうして、そんな悪いことをするやつが守りたいやつだって言うんだ?」
「好きだから」
ナーミの微笑みは揺るがなかった。眼を見張るラスメイに、ナーミはそう言いきった。
ナーミは首を傾けると、公園を見つめた。子供達の笑い声だけが明るく響く。
ナーミさまぁ……。
手を振りかえすナーミの顔は、笑顔になりきっていなかった。ミラールは手を振る子供をしばらく見つめて、ナーミに視線を戻す。
「『醜い者』って何ですか」
その問いとミラールの視線、ラスメイの視線にナーミは臆さなかった。唇に浮かんだ笑みは、諦めの笑みだとミラールは感じ取る。
「この町一番の人形師でありながら、その顔を仮面で隠しつづけている男。
誰も近づかぬ森の奥でひっそりと人形を作りつづけている」
「それは、普通の答えですね。貴方の答えが聞きたい」
ミラールの茶色の瞳は、時に驚くほど静けさを含む。全ての感情を押し殺した瞳は、真実だけ追い求めようとする。
その目を見て、ナーミは笑った。
「キール。
カタデイキール=レイ=メロサーデ」
つづられた名前は、どこかで聞いた響きだった。
「レイ……カタデイナーゼの」
ラスメイの呆然としたような響きに、ナーミは続けた。
「不吉とされた双子の弟よ……」
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