シャイナとの出会いは、笑えてしまうぐらい単純だった。彼女の好奇心から始まった。
ただ、お茶に呼ばれた。
いつもの様にお気に入りの大木の枝で、ひなたぼっこをしていたんだ。そう、あれは多分、光宮
《ヴィリスタル》から逃亡を図ってしばらくしてからだった。
リーシャとはまだギクシャクしてた。自分の監視人だという意識が強かったから。
自分と同い年のリーシャこそ、かわいそうな役割だっただろう。同い年だから選ばれたんだろうけど、仕える者《ニア》としては優秀だったんだろうな。
おずおずとリーシャが声をかけてきた。
「エノリア様」
私はその遠慮がちに声をかけられることが一番嫌いだった。だから、返事はしなかった……かな。
うん、その時はしなかったんだと思う。
「エノリア様?」
何度も「様」付きで呼ばれるのは、まだ慣れてなかった。3回目で私は顔を地面に向けた。
「あの……」
「何よ」
リーシャへの警戒心を解くのに、どれくらいかかったっけ。しばらく周りはみんな敵だった。
「あの、月の娘《イアル》様が、お茶をご一緒したいと」
「は?」
耳を疑った。私の問いかけ方は随分きつかったみたいで、リーシャがおどおどと身じろぎをする。
「月の娘《イアル》様が」
「聞こえてるわよ。何故?」
自分の待遇が『幽閉』だってことぐらい、よく知ってた。今は亡き先代の王から直々に、遠まわしの遠まわしでそう伝えられたって、ありがたくもなんともなかった。
自分の国の『王』はすでに飾りだったから、『王』のありがたさが私には分からなかった。ただ、創造神《イマルーク》の末裔ということだけが、私に好奇心を起こさせていただけだ。あとは、怒りしかなかったんだと思う。
(諦めを認めることは、未だに出来やしない)
リーシャはおどおどと言葉を捜す。
「何故って……言われましても」
はっきりしないリーシャの態度に、私は少しいらついて単刀直入に聞きたいことだけを切り出した。
「出てもいいわけ?」
「月の娘《イアル》様が、許可を取られたようです」
私はシャイナの目的がよく分からなかった。
哀れみか、同情か、好奇心か。きっとそれのどれかだろう。
そんな風にしか思えなかった。
小さいころから、その身に宿す光《リア》のおかげで、ぬくぬくと育ってきた少女。どんな特権意識を持っているのか。
光《リア》とは無力。
私はそれをよく知っていた。どんな風にその意識を崩してやろうか……。そうとしか、考えてなかった。
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