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=10の方程式
 
 桜の花びらが散り始めて、新芽の黄緑が桜色に混ざり始めたころに、君はこう呟く。
「6+4はね、ピンク+黄緑だよね」
 はぁ?と聞き返すと、君はふふふと笑ってまぶしそうに桜の木を見上げた。
 6+4は10だろって言うと、そうなんだけどと不満そうに俺を睨む。
 君の思考はワカリマセン。黄緑+ピンクじゃだめなのかって聞くと、しばらく考える様な仕草をする。
 そこまで真面目に考えるようなことですかぁ?
「やっぱりね、6はピンク色じゃないと!」
 満足そうに断言して、パッチワーク風のスカートを風に乗せる。
 はいはい、さよですか。



 小さな定食屋にも赤い「氷」という字がひらめくようになったころ、かき氷がいいと主張する俺の Tシャツを引っ張って、コンビニの小さな箱の前でうなっていた。このアイスの入ってる箱を、冷凍 庫って言っていいのかなぁなんて呟きに、俺はなんとなく答えそびれていたけど。
 そんな口にいつまでも残りそうな奴、食いたくない。などと背を向けて、選び終わるのを待って いたら。
「3+7は赤+青ね」
 突然思いついた様に口走る。
 ちょっとまて、春にも同じようなフレーズを聞いたぞ。あれは6+4じゃなかったか?
 どうしてこんなとこでそんなこと思いつくんですか?
 不思議そうな顔をする俺を、同じくらい不思議そうに見つめかえしてくる。
 そして、ふわりと笑った。
「どうしたの?」
 あのさ、やっぱり3は赤なわけ?青じゃだめなんだ?
「やっぱりって?」
 いや、いいや。それよりも早く選べよ。
「王道でバニラかな」
 また、濃いものを選ぶんだなぁ。
 それでも、満足そうに木のスプーンでカップの中を探る君を見ていたら、何にも言えなく なってしまう。
 暑いなぁ。
「夏も終っちゃうね……」
 セミはうるさいぐらいないているのに、寂しげにそう呟いた言葉がいつまでも耳に残っていた。



 赤と黄色が美しい季節。近くの公園をいっしょに歩いていたら、君は木を見上げて何か言いたそう な顔。
 あ、なぁなぁ。
 やっぱり、8+2は赤+黄色とかじゃないのか?
 そう言うと、君は晴れたような顔をする。
「どうして言おうと思ってたことがわかるの?」
 そりゃあ……。ん、まあなんだ。
 なんとなくな。
「8は赤よね!」
 夏は3だったけどな。
 君は覆い被さった黄色と赤と入り混じった空に両手を伸ばす。
「綺麗だぁ!!」
 感激した様に声をあげる君の横顔を、俺はずっと見ていた。
 綺麗だな。
 呟きに、君は頷いて答えた。
 俺が何を見て綺麗だって言ったのか、ちゃんと考えて頷いてるのか?お前。



 珍しくこの地にも雪が降った。ここに来て3年目。いつも見る景色が、白くなる様を知った。
 色は全て沈黙して、白が全てを攫って行く。
 白の間から見え隠れするのは、黒い無機質アスファルト。
 車のタイヤ跡は、無慈悲なぐらい白を引き裂く。
 情緒も何もないよな……。
 1+9。
 急に浮かんだ記号。
 白+灰色。
 君ならどう言うだろう?また、なんで分かったのって喜んでくれたんだろうか。

 ……=10か。
 だったら、0+10だよ。
 全部、君が持っていってしまった。
 
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