・一縷の風・
風の嘆きを聞いた
離れていく貴方を止めたくて 届かなかったこの手は温もりを忘れてしまった
それと同じように喜びを忘れて久しい彼等は もう笑う事も無い
今日も乱暴に頬を撫で付けていく
想いは また掻き消されてしまったのかもしれない
ただ飛んでいるだけで幸せだったあの頃ほど 空は広くもなく 優しくもなく
何をするにも痛みを伴うと知った時 白い翼は既に凍り付いていた
空は 何も応えてくれない
貴方は翼を休める事を知らず いつまでも飛び回っていた
いつか 私の知らない場所へ旅立ってしまう予感があって
その日に 風は初めて泣いたのだ
その日から 風は笑う事を忘れてしまったのだ
空を染める光の訪問者があと何度も昇らないうちに 私は堕ちてしまうだろう
だから その前にもう一度だけ貴方に逢いたい
貴方に巡り逢えた奇跡と喜びを胸に
蘇る優しい風に抱かれながら この深淵な空の向こうへ
私は ここにいるから
私は それで終わりでいいから
とどいて――