●ウツラナイ鏡●
磨りガラスのような少し曇った表面。
朝早くにカーテンを開けたときの結露のついたガラスのよう。
とける、とけるよ。
数時間後には、表面がツルツルになって曇り方が緩和されてた。
その数時間後には、跡形もなく消え去っていた。
鏡が一人旅に出掛けてしまった。
ただ一つの手がかりは、少し湿っている一区画。
鏡のあった場所は、水分を含んでいた。
表のバケツに水入れて、明日も鏡の製造を致しましょう。
数時間後には、解けて跡形もなくなるその時だけの、この世でたった一つの私の鏡。
鏡は鏡でも、何もウツラナイ。
数時間の命を与えられた、儚い凍てついた結晶は白くがさついて。
それは何だか人の心のように見えました。
(17.December.2000)